卒業して56年、故郷の嵯峨野高校の同窓会に初めて出席するために3泊4日の日程で京都へ行った。 滞在スケジュールの中、わずかな間隙を縫って、幼少の頃より一度は登ってみたいと思っていた西山の一角、松尾山への登山をついに果たした。京都を訪ねる誰もが眼にする西山である。松尾大社の背後に控える一見なだらかな女性的な山である。その北側には名勝嵐山が連なる。
登山と言うほどの大げさなものではない。わずか271.6メートルの松尾山である。しかし、子供の頃から毎日見て育った山である。山の向こうには何があるのだろうか、山の上からはわが故郷はどのように見えるのだろうか、という憧れにも似た思いはこの年齢になるまで持ち続けていた。
このたびの山歩きは突然の思いつき故、日頃親しんでいるウオーキングの服装ですらなく、ネクタイこそはしないもののタウンシューズとスポーツシャツの街中スタイルである。 永年遠くから見慣れていたなだらかな山々は、結構アップ・アンド・ダウンが激しく、季節はずれの真夏日ということもあって汗びっしょりの苦行となった。
登山コースは、「京都一周トレイル・西山コース」としてよく整備されているのだが、日頃鍛えているつもりの脚力も頼りなく、歳のせいとはいえ体力の低下を思い知らされた。かつては中学校の山岳部にも属し高校時代には北アルプスや関西近隣の山々を踏破した体力は全く無くなってしまっていることを認識した。道端で見つけた木の枝を杖代わりにしたことは、膝への負担を軽減するのに大いに役立った。
悪戦苦闘の末下山、西芳寺、鈴虫寺を経てやっと松尾大社に辿り着いたのは約2時間半後であった。当日5月16日の午後は嵯峨・車折神社の三船祭であり、その準備のための雅楽が嵐山の方角から山の上まで絶え間なく聞こえて来て一人行脚の慰めとなった。どこかで子供が担ぐらしいお神輿の掛け声も聞こえてきた。
其処ここに山つつじが自生していたり、むせかえるような若葉の香りが季節を満喫させてくれた。 山から得られる市内の眺望はやや期待はずれではあったが、永年の拘りがとれて爽快な気分に浸ることができた。
*本編「国際芸術見本市(ジャパン・アート・フェスティバル)始末記」については下記サイトをご参照ください。
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