北杜夫 - 夢を呉れたその交友関係
北杜夫の訃報に接した。大学を出たあと、昭和30~40年代に始まり近年まで親しんできた多くの作品が思い出されて懐かしくもあり、もちろん淋しい気持ちになってしまう。若い頃、海外出張の際に何冊か新刊本を求めて旅先へ携えていき、残り少ない貴重なページを惜しみながらめくっていた頃を思い出す。
「どくとるマンボウ航海記」、「夜と霧の隅で」、「楡家の人々」、「白きたおやかな峰」や、数多くのユーモア溢れたエッセイ、時にはべらんめえ調子の短編などは、その時どきの気分に心地よい感動や励ましを与えてくれたものだ。
90年代の著作、茂吉シリーズ(青年茂吉、壮年茂吉、茂吉彷徨、茂吉晩年)は、父茂吉が生きた時代背景、生の人間茂吉、また、北と茂吉の心の交流を知る上で興味が尽きない。
なによりも羨ましくも、また関心が持たれるのはその童心溢れる交友関係である。いわゆる第三の新人といわれた、北にとってはやや年長の作家たち、安岡章太郎、阿川弘之、遠藤周作、吉行淳之介、三浦朱門や、佐藤愛子らとの交友関係が多くのエッセイや短編の中に窺われて面白い。
交友関係といえば辻邦生との「若き日の友情 ‐ 辻邦生・北杜夫往復書簡集」(新潮社刊)がある。旧制松本高校で出会った二人の青春時代の友情と情熱が熱く語られている。そんな関係を初めて知る人もいるのではないだろうか。
*本編「国際芸術見本市(ジャパン・アート・フェスティバル)始末記」については下記サイトをご参照ください。
http://gastrocamera.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_9a53.html
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私の中には、あなたが沁み込んでゐる。
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» 追悼:北杜夫さん(その2) [KATHURA WEST]
朝日新聞10月31日文化欄
《マンボウ日本人を解放》と題して、なだいなださんが追悼文を書いている
妙に可笑しかったので、ここに記録しておく。
かれが「自分はそううつ病だ」といってくれたおかげで、精神科の臨床がやりやすくなった、とぼくは書いた。自分が患者だったら「そううつ病という精神病です」と診断された方がいいか、「北杜夫さんと同じ病気です」といわれた方が受け入れやすいか、考えればすぐ答えがでる。このクスリは北さんが「そう」の時にのんでいるのと同じものですといえば、患者さんは喜んでのんでくれ... [続きを読む]
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