落穂ひろい(10)飛行機のこと(不眠症)・再転記
どちらかと言えば不眠症の性質である。本編にも記したように、「国際芸術見本市」(ジャパン・アート・フェスティバル)に関わった4年間は、まさに出張に次ぐ出張の連続であったが、勤務先が変わった後の35年間もやはり海外出張が続いた。殆ど毎年、時には二度三度も。そしてホテル生活。そんなわけで飛行機の旅とホテルでの生活は否応なしであった。
機内で眠ることに得意な人と、不得手な人がある。これまでに、ぐっすり眠ったという満足感を得たことはまずない。もっとも、これは機内だけではなく、当時は旅先のホテルでも不眠症に悩まされたことは、本編の元となった「古い日記」の其処此処に記しているとおりである。街のドラッグストアで睡眠薬をもとめたり、夜中に目覚めて朝まで小説や雑誌を読んだりしたこともしばしばあった。
機内では、絶え間ないエンジンの音が徐々に意識を麻痺させるのか、朦朧とした頭の中で際限の無い思考を繰り返す。旅先でのこれからの仕事のことや、まだ見ぬ将来のことに始まって、果ては数々の思い出など、とくに遠い幼少の頃の記憶、故郷の四季や懐かしい折々の行事、そして家族や今はとっくに亡くなった親族や先祖のことなどにまで思いを馳せる。結構楽しい時間つぶしになる。
同時に適当にチャンネルを切り替えながらヘッドフォンからの音楽も受け容れる。クラッシック、ジャズ、ポップス、演歌・・・時間を経て頭はますます疲労し朦朧としてくる。
或る時期(1967年頃)から、日本航空では城達也のナレーションによるジェット・ストリームが流れるようになった。これも、高度一万メートルの雲海飛行を実感しながらジェットエンジンの振動に身をゆだねる。心地よい眠りを誘ってくれたものだった。そういえば昨年はその40周年にあたるとのこと。そして現在のナレーター(パイロットと言うのか)は伊武雅刀であるとか。
近年では機内の映画も楽しみのひとつに。懐かしい名画に始まって、セントバーナードが主人公の「ベートーベン」やイギリス喜劇「ミスター・ビーン」に初めて遭遇したのも機内であった。
種々の旅行グッズが売り出されるようになった。耳栓、アイマスクはおろか、果ては首を固定するための、水泳用の浮き輪に似たものまでが。確かに、狭い座席ではどう工夫をしても寝心地が良いわけは無い。時には二つ、三つの枕を当ててみたり、体の向きを変えてみたりしての悪戦苦闘が続く。
最近では、運動不足と歳のせいか、また不眠に苦しむことが多い、と自分では思っているのだが、どういうわけか家人からは、いびきの大きさを指摘されている。一度でいいから、大きいいびきをかく位に深い睡眠をと自分では願っているのだが。考えてみれば、シャワーを浴びてパジャマに着替え、静かな自宅の100%フラットなベッドに横たわれることに比べれば、機内のファーストクラスも物の数ではない、毎晩が超デラックスクラスの飛行なのだ、と自分を慰め納得させながら不眠症と闘っている。
*本編「国際芸術見本市(ジャパン・アート・フェスティバル)始末記」は下記サイトからどうぞ:http://gastrocamera.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_9a53.html
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